ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出
1945年4月30日、アドルフ・ヒトラーが自殺。5月7日未明、ドイツ軍は無条件降伏文書に調印し、ここに6年に及んだ第二次世界大戦における欧州戦線は終戦を迎えた。
英国ロンドン、バッキンガム宮殿から、歓呼に沸く群衆を、陸軍の軍服に身を包んだ[脚注 1]リリベットことエリザベス王女が静かに見つめていた。そこに妹マーガレット王女が現れ、今宵こそ王宮の外へ出たいと胸を躍らせる。リリベットは母エリザベス王妃に願い出るものの、姉妹の予想通り却下される。リリベットはマーガレットの部屋を訪れ、結果を伝える。軍服のリリベットに対し、マーガレットは若い娘らしい花柄のワンピースを着、その部屋にはブロマイドが飾られ、流行の音楽が流れていた。侍従から聞いた、ロンドン一のホット・スポット、あのグレゴリー・ペック[脚注 2]も訪れたというクラブ「カーゾン」に憧れるマーガレットはリリベットの手を取って流行りのステップを踏む。6年に及んだ戦時下生活に加え、王族としての義務と慣習の中で「尼僧のように」暮らす姉妹は若さを持て余していた。
連合国の大使や要人との会談の予定を確認する席上、姉妹は再度、母后に外出を願い出る。王族としての立場、"臣民"との身分の違いを理由に、やはり許可されない。そこへ国王ジョージ6世がやってくる。吃音のある国王は、戦勝に際するラジオ放送の準備に余念がない。時折、言葉に詰まりながら練習する。リリベットは、父王に外出を願い出る。国民の反応を感じたい、と。国王は、期せずして王位継承者となったリリベットの立場を理解し、外出を許可する。
トラファルガー広場に、カーゾン、チェルシー兵舎でのパーティ…と、浮かれながらピンク色のカクテルドレスに身を包んだ姉妹の前に、チェルシーの連隊から派遣された二人の陸軍将校が現れる。二人を護衛に「監視下で安全に」外出をするよう母后から言い含められる。門限は当初0時だったが、停戦発効時間が英国時間5月9日0時01分であることから、臣民の反応を見てから戻れるよう1時とされる。
市街には、人々が国旗を手に大興奮していた。二人の王女は、その様子を車中から眺める。やがて、車はリッツ・ロンドンに到着する。ホテル内でも人々は大はしゃぎしていた。王女達は、母后の差し金か、特別室で貴族たちの接見を受ける。その頃、護衛の将校たちは娼婦たちと過ごし、王女達への監視を怠っていた。まずマーガレットが抜け出し、海軍士官に誘惑されるまま、ロンドンバスに乗ってどこかへ消えてしまう。リリベットはマーガレットを追って、後続のバスに乗り込む。ガラス越しに、マーガレットはトラファルガー広場へ行くと伝えるが、姉妹は離れ離れになる。リリベットの元に、乗務員が運賃を回収しにやってくる。現金を持っていないリリベットは困り果てるが、居合わせた空軍兵が代わりに支払う。空軍兵にバスの降り方を聞く途中、二人は誤ってバスから転落してしまう。リリベットは空軍兵に案内されるまま、パブに入る。市井の人々でいっぱいのパブで、国王のスピーチ放送を聞く。人々は直前の喧騒が嘘のように静まり返り、深い敬意と感謝を胸にスピーチに聞き入る。リリベットはその様子に感銘を覚えるとともに、父王が吃音を呈せずに放送を行っていることに安堵する。
ところが、先ほどの空軍兵がだけが、綺麗ごとばかり言いやがって、と露骨に反感を示す。パブの客たちと喧嘩になり、店をつまみ出される。空軍兵を頼るリリベットは、トラファルガー広場に連れて行って欲しいと頼むが、二人はいつの間にか広場に到着していた。彼の名はジャック。リリベットはマーガレットを探すが、全く見当たらない。それどころかジャックはその場で知り合った女二人と、バッキンガム宮殿前に行ってしまう。その頃、マーガレットは噴水に入ってはしゃぎ、さらに海軍士官と共に歓楽街ソーホーへ行く。停戦発効の瞬間、リリベットは宮殿前に行き、両親がバルコニーに出て"臣民"の歓呼に応える様子を見る。リリベットは、ジャックと一緒にいる女に、本心から国王に感謝しているか問う。すると、彼女が誰か知己を亡くし複雑な思いでいることを察するのだった。停戦の時刻、人々はハグし合い、恋人たちはキスを交わした。リリベットも、周囲の人々とハグし喜びを共にする。そしてジャックの恋人だと主張して女たちを追い払うと、マーガレット探しに協力させる。リリベットは「恋人は海外赴任で遠くに居て、いないのと同じ」とジャックに説明する[脚注 3]。
人々の歓呼を窓越しに、国王夫妻は次の総選挙でチャーチルが政権を維持できるか[脚注 4]気に掛けていた。今、戦勝に沸く人々も、やがてリリベット同様に「戦後の現実」を見るだろう、と。
マーガレットは「カーゾン」よりホットな場所として、裏通りの娼館に連れて行かれ、怪しげな薬入りのピンク・ジンを飲まされていた。泥酔したマーガレットは、娼館の元締めの元にたどり着き「P2(ピーツー)」こと第二王女(2nd Princess)であると名乗る。元締めは、彼女が本物の王女であると見抜くとともに、海軍士官を追い払う。さらに彼女が、兵舎の合言葉を知っていることから、娼婦たちを連れて兵舎へ向かうのだった。一足遅く、娼館に潜入したリリベットとジャックは、マーガレットの行先を知り、何とか脱出する。その途上、ジャックが実は脱走を決意しており、現時点では無許可外出であることを知る。
タグボートでチェルシーに向かいながら、ジャックの脱走の経緯を訪ねる。ジャックはベルリン空襲に参加していたが、ある日、高射砲の反撃を受けて機体が大破。戦友の死を目の当たりにしたのだった。ジャックは休暇を願い出るが、逆に「意欲低下」の烙印を押され「ジャップと戦うため」極東に転戦させられる予定だった。功績はお偉方のものに、だが兵士や労働者たちこそ懸命に戦い働いているのではないか。ジャックの話や、廃墟の中で生きる人々の姿を見て、彼女なりに懸命に従軍してきたリリベットは我に返る。
チェルシーの兵舎では、たくさんの女たちと兵士・将校たちが踊り騒いでいた。姉妹を護衛できなかった将校たちも、処刑の前にと酒を飲んでいた。ついに姉妹は再会し憧れのステップを踏む。さらにジャックとリリベットも手を取り合って踊るが、そこに憲兵が現れ、ジャックを捕える。ついにリリベットとマーガレットは身分を明かし、護衛の将校、「友人」ジャックと共に兵舎を後にする。ジャックは複雑な心境であったが、リリベットの苦悩を聞くと、脱走の前に訪れるつもりだった実家へ姉妹を案内する。ジャックの実家では、老いた母が慎ましく暮らしていた。リリベットは家事の手伝いに困惑するものの、その家に国王一家の写真が飾られ、素朴な敬意を好ましく思った。
マーガレットを将校ともに先に宮殿に帰すと、リリベットはジャックと共に遠回りしながら宮殿へ帰る。リリベットとジャックは父王・母后と共に朝食をとる。リリベットは父王に"臣民"たちの様子を伝え、またジャックが戦線で活躍した英雄だと紹介する。ジョージ6世は、姉妹が過ごしたのはリッツだけとしつつも、リリベットがアメリカ大使との会談に同席したいと言うのを聞き、娘が次期女王としての自覚を強くしたことを喜ばしく感じる。
日朝点呼までに部隊へ戻るというジャックを、リリベットは車で送る。ノーソルト空軍基地に着くと、衛兵に「ウィンザー准大尉の特別任務」としてジャックの無許可外出を不問にさせる。ジャックは野に咲いていたマーガレットを王女に手渡し、別れのキスを交わす。何事もなかったようにジャックは点呼に参加した。そして、宮殿に戻るエリザベス王女もまた、晴れやかな微笑みを見せるのだった。
エリザベス王女 - サラ・ガドン(下山田綾華)
マーガレット王女 - ベル・パウリー(竹内恵美子)
ジャック・ホッジ - ジャック・レイナー(日野聡)
ジョージ6世 - ルパート・エヴェレット(各務立基)
エリザベス王妃 - エミリー・ワトソン(喜代原まり)
スタン - ロジャー・アラム(英語版)(宮崎敦吉)
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