からっ風野郎
昭和30年代の東京。
刑務所内のバレーボール大会。試合中の囚人・朝比奈武夫に面会の知らせが来た。同じチームの囚人が代わりに武夫の上着を着て面会に行った。面会の男は、「111番の朝比奈だね」と名札を確かめると同時に拳銃を撃った。殺し屋は朝比奈武夫ではない全くの別人を殺したのだった。命を狙われた朝比奈一家の二代目・武夫は、なんとかその日に予定どおり出所した。殺し屋を仕向けたのは朝比奈一家と反目する新興ヤクザ相良商事の社長・相良雄作であった。そもそも、武夫が2年7ヶ月間服役したのも、父の復讐で相良の足を刺したためだった。大怪我をし後遺症の残った相良は武夫を個人的に恨んでいた。
出所した武夫はまず情婦のキャバレー歌手・昌子に会った。抱き終わると武夫は非情にも、昌子のネックレスを手切金代わりだと奪い取り、さっさと彼女と手を切った。命を狙われている自分に女はお荷物だったからだ。武夫の隠れ家は映画館・コンパルの2階だった。その映画館には新しいもぎり（切符係）の女・芳江が働いていた。武夫は芳江から、「親分なのにちっとも怖くないもん」と言われた。ある日、芳江は町工場に勤める兄の正一に弁当を届けにいき、ストライキにまきこまれ、そのまま留置所に拘束された。
武夫の叔父・吾平は相良を殺して来いとハジキを武夫に渡した。そして、相良との対決の機会が訪れた。大親分雲取からの法事の招待状が両者に届いたのだ。当日、寺には相良はいなかった。武夫が帰ろうとしたところを、殺し屋・ゼンソクの政の銃弾が襲った。しかし、政がゼンソクの発作を起し弾丸が外れたため、武夫はなんとか左手を射たれただけで済んだ。
留置所から出てきた芳江が、武夫がいる隠れ家・コンパルの2階に現われ、もう一度、映画館で雇ってくれと頼みこんで来た。雇ってくれないと居場所をバラすと言った。武夫は無理やり芳江を抱き、「こうなったのもお前が好きだったからさ」と言い、2人は付き合うようになった。ある日、2人が遊園地から出たとき、武夫は相良の幼い娘・みゆきを偶然見つけ誘拐した。そして相良一家が薬品会社から金をゆすろうとして手に入れたブツ（治験で死人が出て問題のある新薬）をよこせと相良に要求した。だが、その取引は、朝比奈一家と相良と繋がりのある大親分雲取が登場し、薬の儲けは折半して両者手打ちにしろとの仲介で2人は一旦収めた。相良は半分になった儲けのさらに半分を雲取に仲介料として取られるはめになった。
芳江が妊娠した。命を狙われている自分に子供ができると面倒なことになるから堕ろせと言っても芳江はきかない。産婦人科に連れて行ったが抵抗され、帰り際、昌子と鉢合わせする。自分と芳江との仲を昌子が相良に密告することを察知した武夫は、芳江を安全なところへ匿った。どうしても産むと言って聞かない芳江に根負けした武夫は、彼女と所帯を持つ決意をする。
そんな折、相良が芳江の兄を監禁し、朝比奈一家が取引で得た金で経営をはじめたトルコ風呂の権利をよこせと脅してきた。芳江の身に危険を感じた武夫は、九州の田舎へ身をかくすように芳江に命じた。武夫は舎弟で親友の愛川に、トルコ風呂の権利をくれと相談するが揉め、相良一家にピストル一丁で単身乗り込もうとする。愛川は無謀な武夫を諌め、トルコ風呂の権利書を相良に渡し、芳江の兄を救った。
一件落着し、愛川の勧めで彼と一緒に大阪で堅気になることに決めた武夫は、里帰りする芳江を東京駅まで送りに来た。そして生まれてくる子供の産着を買いに、構内のデパートに走った。しかし、売り場で待ち伏せしていたゼンソクの政に武夫は捕まり、その場で後ろから撃たれた。武夫はデパートのエスカレーターの上に転げ倒れた。人垣の中、エスカレーターはその武夫を乗せ静かに上昇していった。
三島由紀夫
若尾文子
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