硯(すずり)
“中国映画初の官能ミステリー”が謳い文句の、実際なかなかエロティックな画面作り(無論、直截的描写はないが)と、ちょっとしたドンデン返しが印象的な秀作だ。戦前のいまだ封建的な“家”制度が息づく中国南部の町。格式と伝統ある大家に、一人の美しい娘がハンサムな若旦那に見初められ、嫁に入る。だが、夫は男性としての能力がなく、義父母に世継ぎを生むことを過度に期待される彼女は、いつしか逞しく純朴な使用人に心ひかれ、夫も公認で彼と関係を持つようになるが……。解放後の今やすっかり落ちぶれたその家で、既に亡くなった息子(実は不義の子である)の嫁に何かと楯突かれながら、僅かに残った骨董と土間に鎮座する巨大な硯を守って暮らす老婆は、硯に興味を持ち、足繁く彼女の元に通う古道具屋相手に封印していた過去を回想する。中国に現在でも燻る女性蔑視--すなわち、世継ぎを宿すための嫁--の問題を真正面からでなく、濃密な映像美と洗練されたスタイルをもって滔々と語る、やはり、彼の国の映画としては異色と言っていい作品。
チェン・インイン
シー・シン
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