瀬戸内海賊物語
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瀬戸内海に囲まれた小さな島で暮らす少女・村上楓は、戦国時代に瀬戸内一帯を支配した海賊・村上武吉の末裔だった。楓は、同級生の麻田冬樹と二階堂学の三人で、先祖の残した財宝を探して島中を巡っていた。楓たちが暮らす島では、島と本土を結ぶフェリーが老朽化のため路線廃止の話が持ち上がっていた。路線が廃止されてしまうと、醤油屋を営む楓の家や本土に作物を配送して生計を立てている島民の生活が成り立たなくなり、島に住めなくなってしまう。楓はこれからも島で暮らすため、先祖の財宝を見つけて、フェリーの修理をしてもらおうと考えていた。楓は、家の倉で見つけた財宝の地図の解析を担任の宇治原清秀に頼み財宝探しを進めるが、同級生の宮本愛子には「バカバカしい」と呆れられてしまう。
そんな楓の姿を見た祖母の絹子は、「村上本家の屋敷に行けば、財宝の手掛かりがあるかも知れない」と言い、三人を連れて本家の屋敷に誘った。喜ぶ楓だったが、それに対し父親の達也は「財宝なんかあるはずない」と冷たく言い放った。達也の言葉に意気消沈していた楓は、本家の屋敷の倉で先祖・武吉の幻に出会い「迷わず進め」と言葉をかけられ、財宝の手掛かりとなる「初陣の笛」を見つけた。島に戻った楓たちを出迎えた宇治原は解析した地図を渡すが、「フェリーの廃止は避けられそうにない」と伝えた。その言葉を聞いて財宝探しを諦めようとする冬樹と学と言い合いになった楓は、一人でフェリー問題の住民説明会が開かれている公民館に乗り込み、フェリー会社の佃社長と町長に廃止を撤回してくれるように直談判するが、相手にされず追い出されてしまう。そのことを親から聞かされた冬樹と学は楓と仲直りし、再び財宝探しを始めることになった。
宇治原の解析した地図には、財宝が瀬戸内の何処かの島に隠されていることが書かれていたが、楓たちだけでは島を見つけるための船を漕ぐことは出来ない。それを見た愛子は、「水軍レースの練習用に使っていた小早船を貸してあげる」と言い出した。水軍レースの優勝経験のある愛子から猛特訓を受けた楓たちは、数週間後には四人で船を漕げるようになり、早速財宝の島へと出発した。しかし、財宝を横取りしようとする愛子の兄・龍一と悪友の輪島イワオが追い掛けてきて四人から地図を奪おうとする。何とか龍一たちを振り切った四人は財宝の島に到着し、先祖が仕掛けたトラップをかわしながら島の中を進み、海底部の洞で遂に宝箱を発見する。そこに龍一とイワオも追い着き宝箱を奪おうとするが、満潮により島が沈み始めていることに気が付き、六人は協力して島を脱出した。
六人が漂流して海上保安部に救助されたことを聞いた島民たちは、住民説明会を中断し海岸に集まって来る。楓たちは皆の前で宝箱を開けるが、中には白磁の台があるだけで、楓たちが望んでいた財宝は何も入っていなかった。「フェリーを直すことが出来ない」と泣き出す三人だったが、必死に島のためを思い行動した三人の姿を見た島民たちは心を動かし、路線廃止を強硬に主張していた佃社長も感化され、路線を存続する方向で話し合いが再開されることになった。
数年後。中学生になった楓は、修理が終わったフェリーの竣工式を絹子と二人で祝っていた。その絹子の手には、絹子が以前から欲しがっていた一眼レフのカメラがあった。「高くて買えない」と言っていたことを知る楓は不思議がるが、絹子は微笑むだけで何も答えなかった。実は、楓たちが見つけた宝箱は二重底になっており、二重底の下に本当の財宝である金の延べ棒が隠されていたのだった。「島にまた何か起こった時に教えてあげる」と心の中で呟いた絹子は、宝箱を本家の屋敷の倉に仕舞い込んだ。
柴田杏花
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