秋津温泉
昭和二十年の夏、岡山県の山奥の温泉場“秋津荘”の娘新子は、河本周作を自殺から救った。周作は東京の学生だが、暗い時代に絶望し、体は結核に冒され岡山の叔母を頼ってやって来たのだった。新子と周作の関係はこれから始まった。それから三年、周作は再び秋津にやって来た。荒んだ生活に蝕まれた体の療養だが、岡山の文学仲間と酒を飲み歩き、終いには新子に「一緒に死んでくれ」と頼んだ。そんな周作に惹かれる新子は二人で心中を図った。しかし、新子の余りにも清い健康な心に周作は、生きることの美しさを取り戻し帰っていった。昭和二十六年周作はまた秋津にやって来た。女中のお民から知らせをうけて新子の心は弾んだ。周作は文学仲間松宮の妹晴枝と結婚したことを告げ て帰っていった。それでも新子は周作を忘れられなかった。二人が出逢ってから十年目、四度び周作がやって来たのは別れを告げるためだった。
岡田茉莉子
長門裕之
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